2009年01月09日

(15)誰も見たことのない「コーチング理論」

コーチングは明らかに心理療法から相当数ノウハウを取り入れて成長してきました。
しかしこの事実は日本ではほとんど知られておらず、またほとんど(まったく?)議論されていません。
が、米国では心理療法との関係性について論議されたことがあるという文献を見出しました。

以前紹介した平野圭子氏のコラムに、次の一節がみとめられます。

「米国で常に議論の的であった『コーチ対セラピスト』」

米国では「常に論議の的」であったと氏は述べているのです。

この温度差は当然なのかもしれませんが、そもそも日本では、未だ気軽にカウンセリングを受けるという文化が育っていません(育つ必要があるのかどうかは不明ですが)。
米国ではカウンセリングが発達していましたから、カウンセラーの仕事をコーチが取ったという論争があるのかもしれません。
何故なら平野氏は続けてこう述べているからです。

「職業としてのコーチから、企業組織内におけるマネジメントスキルとしての『コーチングの知識』が求められる」ように変化したので、「コーチ対セラピスト」という論議は沈静化した。

「 」以外はわたしが付け足しています。

言い換えると、コーチングの知識がマネジメントスキルに収斂されていった過程で、セラピー(心理療法)との棲み分けができるようになったということなのか?

これはカウンセリング・マインドに倣って「コーチング・マインド」と呼ばれている考え方です。
つまり、養成機関でコーチの認定を受けるまでではないが、数回の研修をマネジャーが受講して、コーチングの基本的知識と概念を学んで現場で実践してもらう・・・というものです。
これはまさしく「メンタルヘルス対策」です、カウンセリングで言うところの。

ちなみにNLP陣営は「コーチングはNLP理論に基づいており、全てのコーチングはNLPコーチングにすぎない」と言います。
実はNLPもソリューション・フォーカスト・アプローチの源流であるミルトン・エリクソンの理論や技法、家族療法を積極的に取り入れていますから、その主張はオーバーではありますが間違っているとは言い切れません。

さて、話を戻しますが、平野氏のコラムの記述と類似した文献は他にも存在します。
「エグゼクティブ・コーチングが失敗する時(筆者:スティーブン・バーグラス 出典「コーチングがリーダーを育てる(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部編 ダイヤモンド社(2006))

この論文の中に以下のような記述がみとめられます。

「〜エグゼクティブ・コーチングは「インスタント心理療法」として登場〜」

「ビジネス・グールーのウェーレン・ベニスは「エグゼクティブ・コーチングは、心理療法の一種である。ただし心理療法と比べて世間体がよい」と言っている。」

日本でタブー視されてきたこの関係性が(著名な論文集に)堂々と記述されています。

この論文集は(研究資料として)とても含蓄に富んでいて、後日詳しく言及する予定です。

さてこのようにパーソナル・コーチングはそのほとんどの技法・理論をカウンセリング・心理療法に依存しており、コーチング独自の理論は存在しないと考えられるのです。
しかしこれは問題ではないのでしょうか?

実はこの問題に関しても、再び平野圭子氏のコラムからヒントを求めましょう。
http://www.coach.or.jp/news/backnumber/20060920.html

「この10年間、「コーチとは何か」「コーチングとは何か」について多く語られてきました。【しかし】日本では、どちらかというと「コーチング」のノウハウやスキルに多くの焦点が当てられてきたように思います。

 現在アメリカの大学では、コーチングを「行動学」などに関連づけて学術的に研究し始めています。そして、今まで学術とは関係のなかった数多くの現役コーチたちが大学の成人学習プログラムの授業で教鞭をとっています。

 ニューヨーク在住で、現在国際コーチ連盟の副委員長を務めるプライヤー氏はこう語りました。
「大学で教えるとインテリ層の激しい議論に応対する必要があるのでとても勉強になる」と。」

【しかし】は、筆者が追加しました。

つまり米国では「コーチ論についての論議があったが、日本ではなかった」ということになります。
日本コーチ協会の理事がそれを認めている。

では日本では、どの程度の議論や研究がされているのでしょう。
わたしはここで、驚くべき真実をみなさんに紹介します。

日本語の学術論文に関しては、以下のサイトで検索することが可能です。
「国立情報学研究所 GeNii 学術コンテンツ・ポータル」
http://ge.nii.ac.jp/genii/jsp/index.jsp

ここで「コーチング 理論」をキーワードに検索を行いました。
結果は、ヒット数0です。
厳密に言えば「コーチング理論に基づいた○○」という文献は存在します。
が、その基盤となる「コーチング理論」そのものに踏み込んだ文献は存在しない。
つまりここでも「コーチング理論は既にある」ことが前提とされている。

この典型的な例が、前掲した「難病患者を支えるコーチングサポートの実際」です。
この書籍の、本文の「コーチ」や「コーチング」を全て「プリーフセラピスト」「ソリューション・フォーカスト・アプローチ」に置換したとしても、まったく内容的に不都合は生じません。
それどころか、わたしには、本来「カウンセラー」「ソリューション・フォーカスト・アプローチ」とすべき単語を「コーチ」「コーチング」としただけと受け取れてなりません。

また最近では、コーチングは教育の現場にも有効だと言われておりますが、すでに教育現場ではソリューション・フォーカスト・アプローチが取り入れられています。

「ソリューションバンク.net」
http://www7b.biglobe.ne.jp/~solutionbank/index.html

ここに寄せられている事例データベースを目の当たりにして、今更「教育にもコーチングが有効」とは、何を根拠に述べるのか、その優位性や独自性をぜひ明らかにしていただきたいものです。

以上が「コーチング理論は存在しない」という根拠です。
もろちん技法やツールであれば、コーチングに固有なものも存在するでしょう。
しかし理論と技法と別物です。
戦略と戦術の違いと同じです。

また上記は、パーソナル・コーチングに関する検証であってビジネス・コーチングに当てはまらないと言うご指摘があるかもしれません。
では、ビジネス・コーチングやエグゼクティブ・コーチングと、コンサルティング、マネージングとの違いは何なのでしょうか?
posted by Shigeo at 23:29| 【4】コーチングの理論基盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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