2008年12月21日

(14)カウンセリングとの違いとは

前回わたしは、現在流布しているコーチングの分類法「エグゼクティブ/パーソナル/ビジネス」では、コーチングの特徴や得意とする技法は明らかにならないと指摘しました。
そして自己達成型コーチングは、各種コンサルティング・マネジメントの異名であり、自己達成型コーチングは、ある種のカウンセリング、心理療法の翻案であると考えれば全てがクリアになると述べました。

今回は「自己実現型コーチング=カウンセリング、心理療法」とわたしが主張する根拠について検証します。

その前に、コーチングセミナーやコーチング入門書で(頻繁に)見かける以下の記述について検証しなければ先に進めません。
それはコーチングとカウンセリングの違いについて述べられる説明で、多くは「コーチングとティーチングの違い」、「コーチングとコンサルティングの違い」と同列で扱われます。
では「コーチングとカウンセリングの違い」はどう説明されているのか?

「カウンセリングは原因探求、コーチングは未来探求」
「カウンセリングは過去に遡って問題となって原因を取り除く手法で、コーチングは未来に向かって解決を目指すものであり、両者は根本的に違う」等です。
オリジナルソースは明かでなく、推察ではコーチ・ユニバーシティのテキストに原典があるのではないかと感じますが、この説明に触れたことのある人であれば、どうしてわたしがコーチング=カウンセリングと主張するのか不審に感じられるかもしれません。

しかし実は、この説明は事実を歪曲しています。

確かにカウンセリング・心理療法の祖はフロイトであり、彼が発明したものが「原因遡及型」の精神分析でした。
しかし現在カウンセリング・心理療法には多くの流派があって、特に近年においては原因遡及型の心理療法は最早主流ではありません。
ブーム(と言う言い方も変ですが)となっているのは、解決志向、短期、行動、認知などに焦点を当てた流派で、いずれも「過去に遡って問題となっている原因」を取り除いたりはしません。
(それどころか原因すら特定しません)
したがってコーチングが比較対象としているカウンセリング(心理療法)は、具体的には「精神分析療法」に限定されます。

確かにフロイドは現代カウンセリング・心理療法の祖です。
しかし現代では主流ではなく、あくまでも「数多あるカウンセリング・心理療法の一流派」に過ぎません。
それをあたかも「カウンセリングの共通理念」のごとく取り扱い比較する。
この歪曲をどう解釈すればいいのでしょう?

「それは単なる事実誤認ではないか?」と擁護される方がおられるかもしれません。
が、残念ながら後述する通り、コーチングが「解決志向、短期、行動」に注目した比較的新しい心理療法から多くの技法を取り入れている事実から「未来志向、解決志向なカウンセリングの存在は知らなかった」という主張はまったく受け容れられません。

さて、いずれにしろコーチングの最大の問題は、それらの源流や基盤を明確にしていないことに尽きます。
たとえば多くの書籍では「コーチング理論では、クライアントをサポートすることで成長ができるとされ」などと、いきなりコーチング理論が自明のものとされています。
しかしレナード氏は明確に「利益を得ることが」コーチングであると述べています。
コーチングの基本であるクライアントの自発性を促す「傾聴・承認・質問」に関しては一言も述べられていません。
しかしこれはCTIも似たような状態です。
コーチング・バイブルは良書ではありますが、やっぱり技法の出所を隠している。

では、全てのコーチングに共通な技法「傾聴・承認・質問」はどこから来たのか?

それは米国で生まれたブリーフセラピーと総称される心理療法です。

極論するならば、ブリーフセラピーを健常者向けにアレンジしたものが「自己実現型コーチング」です。
更に強調するならば「自己実現型コーチングは心理療法以外の技法を有しない」とも言えます。

しかし実はこれこそが「コーチング」というネーミングに匹敵するほど斬新な発明なのでした。

言い方は色々ありますが、基本は「傾聴・承認・質問」です。
これはどこの養成機関でも言っている。
しかしそれぞれを詳細に検証すれば、何一つコーチングに特有な技法は存在しないことが分かります。

「傾聴」はロジャースが開発した「来談者中心療法」の中心的技法です。
ロジャースは「クライアントとの信頼関係と共感的理解、そして傾聴こそがクライアントの自発性解決を促す」と語っています。
来談者中心療法はブリーフセラピーではありませんが、「傾聴」技法は現在、ほとんどのカウンセリング・心理療法が取り入れています。

「承認」と「質問」は、ミルトン・エリクソンを源流とする家族療法、MRI、ソリューションフォーカスト・アプローチなど(この流派は派生したものが実に多様なので最低限の例にとどめました)
「承認」はまた交流分析(ブリーフセラピーではありませんが)のストロークと極めて類似する部分があります。

その他、論理療法・認知行動療法などもずいぶん翻案されている。
またCTIの「グレムリン」は交流分析で言えば禁止令、ソリューションフォーカスト・アプローチでは外在化。
実際のところソリューションフォーカスト・アプローチそのものが「解決志向」「未来志向」を一番の特徴としているのですから、コーチングの「今を支える」という考え方とまったく同じです。

他も同じです。
「答えは自分の中にある」
「解決リソースは全てクライアントの中にある」
「過去と他人は変えられない」
これらも全てカウンセリング・心理療法の思想。
カウンセリングはコンサルテーションをしないといわれますが、認知行動療法ではコンサルティング、行動管理がとても重要な役割を果たします。
そして肝心の「ゴール」「課題」すらもブリーフセラピーの重要な技法です。

コーチングモデルとして有名なものに「GROWモデル」がありますが、これを使うくらいならいっそ認知行動療法のいくつかの治療シートをそのまま流用した方がより効果的なコーチングが可能です。
(※GROWモデルとは、Goal(目標の明確化)、Reality(現状の把握)、Resource(資源の発見)、Options(選択肢の創造)、Will(目標達成の意志)の頭文字を取ったもの)

しかしこれらの真実は隠されました。
隠すためにダイレクトに同じ用語を使わず翻案された技法もあります。
しかしこれが問題となるのです。

「承認」はコーチングではアクノレッジメント(acknowlegdement)と言います。
承認・感謝という意味です。
ではソリューションフォーカスト・アプローチでは何と呼ばれているか?
それはコンプリメント(Compliment)です。
同じく誉めるという意味がありますが、語源としては「com-共に+plre満たす+-MENT=意を満たすようにすること」、つまり「補完」です。
サプリメント(supplement)と近い言葉であって、補うという意味合いがある。
つまりコンプリメント(賞賛)は誉めると同時に、クライアントの行動や変化を追認して補完するという意味がある。
誉めることが「補完」となり得る。
補完されることでクライアントは自己に肯定感を持ち、自由な発想をすることを自分に許可します。
自由な発想がやがて、類似した過去の経験の中からヒントとなって言語化される。
この過程が「解決像はクライアントの中にある」という言葉の真意なのです。
そして、こういう理論に基づいて「誉める」のが心理療法。

これがコーチングに取り入れられたとき、心理療法の影響を払拭したいから出来るだけ翻案をした。
しかも表面的な意味だけを取り上げてアクノレッジメントに変えた。
この結果、コンプリメントに込められていた「意味」は失われてしまいました。
だからコーチングでは、どういう理由で誉めるかというと単なる「勇気づけ」や「動機付け」になってしまう。
養成講座では「ブタもおだてりゃ木に登る」などと説明したりする。
(ただしブリーフセラピーの中でも、あまりコンプリメントを用いないカウンセラーも存在します。しかしそれはコンプリメント以外の技法に長けているカウンセラーの場合に可能なケースであるというのが私見です)
posted by Shigeo at 23:43| 【4】コーチングの理論基盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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