2008年12月12日

(13)分類という混乱

前回で、コーチングの源流をたどる検証は終わりました。
今回からは「コーチングとは何なのか」という本論です。
まず結論から申し上げれば「(いわゆる)コーチング論・コーチング理論は存在しない」というのがわたしの主張です。
根拠としては「学術的に研究された書籍・論文が(日本では)存在しないから」です。

この検証を開始するにあたってまずコーチングにおける「ジャンル」について考察します。

これまでにわたしが明らかにしたことから以下のコーチングの潮流が見えてきました。

フィナンシャル・プランナーのノウハウを追求して「対人援助技法」を構築したのはトマス・レナード氏。
心理療法の理論や技法を積極的に取り入れて人間性の成長をサポートしようとし「対人援助技法」の基礎を築いたのはCTIの創設者たち。
現代に至るコーチングの広がりは、全てこの2者を基点としています。
どんな流派・思想であってもいずれかの影響下にある。
つまり「コーチングは異なる2つの思想を最初から有している」
言い換えるなら「コーチングは異なる2つの思想をその出発点とした」

しかし両者にも違えない共通点があります。
それはいずれも「自己実現」を目指しているということ。
これこそがコーチングと命名された対人援助技法が、当時の米国を席巻していた「ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメント」の影響化で誕生した明白な証拠です。
(それ以前に「自己実現」という発想は知られていなかった)

ここでは仮にコーチ・ユニバーシティ派を「自己達成型コーチング」
CTI派を「自己成長型コーチング」と名付けます。

理由としては、コーチ・ユニバーシティ派は具体的なゴール(資産・待遇・資格等の獲得)を有し、目標達成を目的とする傾向が強いからです。
またCTI派は、ゴールが目に見えない、形とならない場合があるなど、「心の安定」や「充足感」を目指す傾向が強いからです。

しかし現代において、このような分類はなされません。
上記は「思想」を基準とした分類であって、このような分類はずっと避けられてきたのです。

現在のコーチングを大まかに分類すると、
1.パーソナル・コーチング
2.エグゼクティブ・コーチング
3.ビジネス・コーチング
の3つに集約されます。
更に細分化すれば無限と感じられるほど専門性に特化したコーチングは存在しますが、いずれも上記の3点に分類可能です。

いずれにしてもこれらの分類は「様式」上の分類です。
言うならば「どういう立場のクライアントに対して実施されるか?」という分類です。
これをカウンセリングで例えるなら、会社員と主婦と社長に対してカウンセリングの名称が異なると言った具合です。
・・・と例えると、とても不思議でおかしな分類だとは感じませんか?
しかし誰も不思議と思わずに、こんな不可思議な分類を是としてきたのです。

この様式的分類法(関係性分類法)が如何に矛盾に満ちているか、もっとも限定的と思われるエグゼクティブ・コーチングについて考えてみましょう。

これは主に経営者クラスに対して実施されるコーチングを指し、概ねパーソナル・コーチングより単価が高く、コーチングの中では珍しく専門性が不可欠というのが特徴です。
(コンサルティング能力が必須とも言われます)
また経営者クラスがクライアントなのですから当然、業績・収益向上がゴールになると考えられます。
したがって思想的分類上での「自己達成型コーチング」とイコールではないかとも考えられます。

しかしここに有名な事例があります。
かつて米国GEのジャック・ウェルチ会長が28歳の女性コーチを雇っていたという逸話です(オリジナルソースは不明ですが)。

このコーチは経営や電機産業についてもまったくの素人で、このことから「コーチングは専門分野でなくても可能である」という主張を引き出す道具として語られている事例です(というか、その論法を引き出すために紹介された事例でしょう
)
しかしウェルチ氏の意図はどこにあったのか?と考えれば想像は容易です。
氏は一種のブレーン・ストーミングを期待したのでしょう。
価値観も立場も境遇もまったく異なる相手と話すことによって、自身の思考が活性化されることを望んだ。
または思考の硬直化を防止しようとした。
こう考えるのが妥当です。
そしてこの想像が妥当であるのなら、この「28歳の女性コーチ」が持ったセッションは果たして「エグゼクティブ・コーチング」と言えるものだったのでしょうか?
明白なのはクライアントが「エグゼクティブな立場」であったというだけです。
高度なコンサルティング能力も、多くの経験も必要ないというならば、そもそも「エグゼクティブ・コーチング」と名付ける必要がないのです。

このように現代の分類は単に「様式」「関係性」を指しているに過ぎません。
コーチの特性や思想、得意とする手法に応じた分類(もしくは定義)を現す言葉はありません。
企業でコーチングを受ければ「ビジネス・コーチング」ですが、同じテーマをプライベートで語れば「パーソナル・コーチング」に変わります。
経営者が家族間問題の解決を望んだら、いったいそれはどこに分類されるのでしょう。
主婦と経営者では、家族問題に対して異なるアプローチが存在するのでしょうか?

次ぎにビジネス・コーチングについて考察しましょう。
ビジネス・コーチングは一対一でセッションを持つ場合と、グループ・コーチングとして集団に用いられる場合があります。
また対人援助というよりは人材(プロセス)マネジメントの比重が高く、そういう意味では特別な知識・経験がないと務まりません。
しかし今述べた専門性は「コーチング特有の技法」ではありません。
すでに世の中に存在する「人材(プロセス)マネジメント技法」です。
したがってどんなに専門性が高くても、ビジネス・コーチングに特有な「コーチング技法」については何も説明できていないのです。

つまり、わたしの結論はこうです。
現代の分類法では、コーチの特徴や資質を推し量ることは不可能。
極端に細分化されたネーミングでも事態は同じです。
例えば「恋愛コーチ」と名乗るコーチが、色恋の知識や経験が豊富なことは容易に想像できます。
しかしどのような手法や技法を得意とするのかまったく判然としません。
これはカウンセラーが「得意なのはカウンセリングです」と言っているようなものです。
語弊があるかもしれませんがもっと分かりやすく例えるならば、占い師が「わたしは恋愛の占いをしています」と言っているのは同じ事なのです。
道具として水晶を使うのかタロットカードを使うのか手相を見るのか語ろうとしない占い師がいたらどうでしょう。
結局いまの分類法は何も説明していない。
いや、説明不可能な分類であって、この分類法だけが一人歩きをしているのです。

そもそもコーチを名乗る人は、自分の手法・技法的な特徴を、いったいどれだけ差別化できているのでしょうか?
いつの間にか自明となった分類法によって、自分の特徴を見失ってはいないだろうか?

さて、このような論考からわたしは、コーチングはまず「自己達成型コーチング」と「自己成長型コーチング」に分類すべきだと提案します。

そして自己達成型コーチングは、各種コンサルティング・マネジメントの異名であると結論付けます。
また自己達成型コーチングは、ある種のカウンセリング、心理療法の翻案であるとやはり結論付けます。

この2つのコーチング思想を無自覚的に取り入れ同次元で扱うため、コーチングは思想として混乱するのです。
posted by Shigeo at 08:58| 【4】コーチングの理論基盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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