2008年09月29日

(5)隠された思想的背景

とは言え、コーチングは間違いなく画期的なコミュニケーション・イノベーションです。
しかし、実際は何もかもが新しいわけではなかった。
たとえば、コーチング関連書籍で引用されることのある山本五十六の歌

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かぬ」

100%ではないにしても、コーチングの本質をかなり言い当てている歌です。
このことからも、コーチングに含まれるスキルや態度は、特段目新しいものではないことが明らかです。
この点は、コーチ21の伊藤守氏が既にご指摘されていることですが。

では何がイノベーションなのか?
それは、漠然と知られていたコミュニケーションの極意を、習得可能な形に整理したという点です。
この「習得可能」である点が重要です。
コーチングはそれ以前の教訓とか処世術とは一線を画すのです。

さて、ではネーミング以外は違和感なく受け容れられたコーチングとは、どんな思想や理論に基づいて編み出された手法なのでしょうか?

これは、オリジナルなネーミングを考案しパテント収入という不労所得の可能性を捨ててまで「コーチング」という名称を選択した事情と一緒に考えてみると分かりやすくなると思います。

つまり、隠したかった「思想」と「理論」があったから・・・と言うのがわたしの仮説です。
まずは「思想」について考えてみましょう。

当時米国の思想界で流行していたのはヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントと呼ばれる、人間の可能性をヒューマニスティックに追求しようとする運動です。
代表的なのが「ポジティブシンキング」や「成功法則」です。
東洋からヨガや瞑想も取り入れられ、ビジネスと宗教と科学が渾然一体となった不思議な運動でした。
(もちろん現在にも受け継がれています)

「願えば叶う」「願わなければ叶わない」
「成功しない者は、成功をイメージできていないから成功できない」
「世の中に偶然はなく、全ては必然である」
等々・・・

これはこれでもっともな意見なのですが、信念とか自己鍛錬とか集中力とか、そういう「個人」に過度な負担を強いる思想ともいえます。
加えて成功法則は「思考のパラダイムシフト」を強調するあまり、「思考法を会得したら後は一人で実践すること」と、人々を突き放す傾向がありました。
しかも失敗したら、それは先生のせいではなく信念の足りなかった本人のせい。
「成功法則を会得したら成功しない方が難しい」と言わんばかりの勢いです。

これでは逆にプッシャーとなって実行は容易ではないだろう・・・と考える人が現れても不思議ではなかったともいえます。

つまりコーチングは、成功哲学の一方的な教訓から人々を解放し、サポーター(コーチ)との共同作業というシステムに置換することで、机上の空論や運ではなく、現実的な成功や目標達成を目指せるシステムに再構築したものだと言えるのです。

ポジティブシンキングは確かに一理あるのですが、何事も行動が伴わなければ叶いません。
これは明白な事実です。
宝くじで一等賞金が欲しいとどんなに集中して願っても「実際に買わなければ」絶対に当たりません。
じゃあ、どうやって行動に移るのか?と考えたとき、ポジティブシンキング、成功法則は明確な答えを持っていませんでした。
かなり怪しい部類だと、寝ている間にメッセージを聞くと良いことが起こるとか、願い事を枕の下に置いて寝ろとかいうものまであります。
(驚くことに現在もそういう商材は存在します)

コーチングは、これらポジティブシンキング・成功法則の思想を具体的に、現実的に、実現可能なシステム化に成功しました。
まさか、誰かのサポートを得つつ成功法則を実践するなんて、今では当たり前ですが、当時は誰一人として考えつかなかったのでしょう。
故に、前回も指摘しましたがこれは画期的な「発明」なのです。

しかし新たな疑問も生じます。
それほど席巻していた思想であるなら、コーチングなんて紛らわしい名称にしないで「ポジティブマネジメント」や「ヒューマン・ポテンシャル・コンサルティング(センスのない例ですが)」等と命名すればよかったのではないか?
それが出来なかったのには理由があった・・・と考えられるのです。
posted by Shigeo at 10:10| 【4】コーチングの理論基盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。