2008年11月09日

(9)日本の事情

さて、前回までコーチングの成立事情について考えてきました。
もちろん全ては僕の推測です。
全て勘違いや単なる妄想かもしれない。
だけど、期せずして同じ年に創設された、共に「コーチ養成」を標榜する組織が、一緒の文脈で語られることが「まったくない」というこの事実。これはいったい何を意味しているというのでしょうか?
(これもまた後ほど)

ところで実は、成立事情だけではなくコーチングに関してますます混乱してしまう記述が存在します。
これもある意味、とても不思議な内容です。
・・・理解しがたい、と言っても過言ではないでしょう。

JCAコーチングニュース[Vol.3] 2002.9.2
http://www.coach.or.jp/news/backnumber/20020902.html

「しかし、最近のICFで最も大きな話題は、他のコーチング支援機関の登場です。特にICFの設立者のひとりであり、コーチング業界をリードしてきたトマス・レナード氏がコーチングについてより気軽に勉強できるバーチャル教育機関を武器に半年足らずで1万人の会員を集めたことは、ICFに対抗する脅威的な存在として捉えられています。 」(平野圭子氏によるコラム)

ICCとは「国際コーチ連盟」のこと。
筆者の平野氏は、その国際コーチ連盟のボード・メンバーというものに日本人として初めて選出され、3年間務められた方で、コーチ21創設のお手伝いもされていたようです。

しかしそれにしても「不思議な話」です。

何故ならトマス・レナード氏が創設したバーチャル教育機関とはCoach Universityに他なりません。
しかしCoach UniversityとICFの発足は同じ年(1992年。ただし正式なICFの設立は’96年)。
そして、このコラムの掲載か2002年。
設立から10年経った時点で「最近」「半年足らずで1万人の会員を集めた」と言っているのです。
・・・では、それまでの10年間のCoach Universityとはどんな状況だったのだろう・・・

それともう一つ、Coach UniversityとICFの関係について述べられている文献も極めて少なくて、同じ年に発足されたのだから、ICFの設立には相当Coach Universityの意向が反映されていると考えられるのですが、平野氏は「ICFに対抗する脅威的な存在」と語っているのです。
・・・どうやら、日本には伝わらない「何か」があるようです。
というか、それらは意図的に隠匿されているのでしょうか?

ちなみに同じコラムの中にはこんな記述もあります。

「日本におけるコーチングの広がりは、特にマネジメントの領域で欧米の何倍もの速さで広まっています。日本のコーチング業界を育てるパイオニアとしてのミッションは、知識と実践の両方をスキルアップすることであると感じています。日本発コーチングモデルが世界基準になるのも、そう遠くはないのかもしれません。」

・・・つまり、日本のコーチングビジネスは本家米国をしのぐ勢いであると?
加えて「日本発コーチングモデル」が「世界標準になる」可能性もあると?
本当に世界標準になるかどうかという可能性については今は何も語れませんが、ここで注目すべきなのは「日本発コーチングモデル」という記述です。

記憶によるとコーチ21の沿革には、前身の会社が「Coach Universityと日本における独占提携契約を結ぶ」とあります。
コーチングについては疑問だらけのわたしですが、一番の疑問は肝心のCoach Universityのカリキュラムや理論がまったく明らかにされていないことに尽きます。
CTIは公式ガイドブック的なものがあります。
しかしマス・レナード氏はカリキュラムや理論について一切「書いていない」

これは米国のAmazonサイトで確認した結果です。
レナード氏の著作で日本で翻訳されているのは、いわゆる「ポジティブシンキング」関係の本が2冊のみで、しかしこれは本国米国でも似たような状況でした(これも後ほど書きます)。
ただしトマス・レナード氏は、数年前に若くして亡くなられています。
もし存命であれば、独自のコーチ論や、コーチングビジネスの歴史についてとか、書いてくれたかもしれません。
そういう意味では、とても残念です。
が、結果論で残念と思えるだけで、レナード氏が存命であっても「理論書」を著述したとは思えません。

このように日本にいて、日本語の文献を漁る限りにおいては、日本のコーチ業界とCoach University、さらには国際コーチ連盟との温度の違いに驚かされる。
・・・もしくは深い亀裂が感じられる・・・と考えられてなりません。

トマス・レナード氏は・・・とても有能なコンサルタントだったのかもしれません。
書籍(難病患者を支えるコーチングサポートの実際)に「レナード氏が自分が構築してきた理論や技術をコーチングとしてまとめ」Coach Universityを設立したと書いてあることも事実なのかもしれません。
というか、現時点のわたしには、そう推測するのが限界です。

そういう前提で少し穿った見方をすれば、レナード氏亡き後のCoach Universityには、あまり魅力がないのかもしれない。
見方を変えれば、Coach Universityと「良好で緊密」な関係を続けられない理由があるのか?とも考えられるわけです。

でもとにかく、マイルズ・メイル氏が何を書いたかはっきりしないように、Coach Universityについてもまったく見えてこないのは事実。

つまり最早「Coach Universityも年表を埋める道具」になってしまったようです。
これだけは間違いのない事実。

もちろん、日本においては、という意味ですが。
posted by Shigeo at 21:31| 【3】コーチングを発明した人々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月21日

(10)レナード氏のコーチング

ここまでの流れを一度整理しましょう。

1.スポーツのコーチが今のコーチングの源流のように語られているが、それは意図的なハロー効果の期待であり、現在の混乱の元凶となっている。

2.コーチングの創始者については、いくつかの記述は散見できるが、いずれも単発もしくは同じ文節に過ぎず、追認を確認できる文献には行き当たらず、現時点では「ビジネスにコーチ」と最初に言ったのは誰だかわからない。
(例えば「ルー・タイス氏が初めてスポーツ界以外にコーチングを持ち込んだ」との記述も見られるが、現時点ではこれもまた追認する文献を見出していない)

3.どうして同じ年に2つのコーチ養成機関が誕生したのか、誰も説明していない。

4.先駆者らしいトマス・レナード氏の存在は、どうしてこうも軽んじられるのか?

5.日本と米国では、状況や手法、認識などが異なっている可能性がある。
(日本での独自進化の可能性)

では、どうして日本ではレナード氏離れが起こっているのか?
今回はこの点を検証します。

では氏の著作を実際に読んでみましょう。

「いつも『いいこと』が起こる人の習慣(自分を画期的に改善する21の法則)(2001 三笠書房)」

これがレナード氏の「代表的な」著作です。
タイトル見て・・・何かを感じませんか?
ポジティブシンキング・成功法則の臭いがぷんぷんします。
ただし原題は「The Portable Coach」
ずいぶんシンプルです。
現在では版権が移動して、原題通り「ポータブル・コーチ」として発売されています。
(コーチ21系の出版社です)

しかしこの書籍、目次を開いただけで明白なのですが、(いわゆる)コーチングの本ではなく「成功法則」本です。
「はじめに」にはこう書かれています。

「私は、底の浅い積極志向は嫌いである」
「そんなあなたに、本物の「積極思想」を一つプレゼントしよう」
「本書で紹介する二十一の「魅力の法則」
「なかには、たった三ヶ月で、生活保護受給者から一転して年間六万ドルの事業収入を得るまでになった人もいる」

・・・いかがですか?
中身の充実度はさておいて、どこをどうとっても「成功法則」

そして氏は、
「金、仕事、人間の内面といったあらゆる分野を統合して」「長期的な成功の手助けをする」ために今の仕事を始めたと記します。
更に、
「私の知る限り、私より前にこの仕事を始めた人はいない」
と。

それはたぶん事実です。
何回か前で書きましたが「成功法則」を教える機関はすでに存在していましたが(ナポレオン・ヒル財団等)、成功法則に則って具体的にマンツーマンで伴走しようなんて考える人はいなかった。
だからレナード氏の発明は画期的なわけです。

しかし・・・これって、ちょっと違うと感じませんか?
いや、はっきり言えば、今わたし達が知っているコーチングと、かなり異なっています。
それとも、わたしの認識が間違っているのでしょうか?

古書店にいけば100円で投げ売りされているたぐいの本ですから、興味があったら探してみて下さい。
ちなみにわたしはアマゾンで1円で買いました。

とにかくレナード氏は、1998年に米国でこんな本を出版していたのです。
コーチ・ユニバーシティを開設して6年後に。
こういう方が作ったコーチ養成機関とは、いったい如何なるカリキュラムだったのでしょう・・・

すでに述べましたが、如何に成功法則と切り離すかが「コーチング」には重要だったと。
確かに名前は変えた。
パラダイムシフトもできた。
しかし・・・中身は成功法則そのままだったたしたら・・・
つまりレナード氏は「コンサルティングをコーチング」に置き換えただけだったのではないか?
と考えられるのです。

わたしたちはこの事実を、衝撃を以て受け止める必要があります。
何故なら、どう読み替えようとも「ありふれた」成功法則本としか読めないコーチ・ユニバーシティ創設者の代表的著作がポータブル「コーチ」と題されているからです。

なぜ、コーチ21の伊藤氏が、コーチングに初めて接したとき「目新しいとは思わなかった」と印象を語られたかが、これではっきりしたと思いませんか?
伊藤氏が魅力を感じたのは、やはり「コーチ・コーチング」という名前だけだったと、あらためて推察できるのです。

ところで現在、米国のサイトでCoach Universityを検索すると、何故か「Coach U」がヒットします。
名称変更でしょうか?
それも「わからない」
どこにも説明はないのですから。
そしてこのCoach Uのサイトの中に、レナード氏は「Father of Coaching」と呼ばれているとの記述があります。
「コーチングの父」ということでしょうか。
コーチ・ユニバーシティでは、レナード氏にそれなりの敬意を表しているようです。
しかし日本ではほとんど関心が示されない。

それは何故か?

つまり日本の関係者こそが、レナード氏とコーチ・ユニバーシティにつきまとう「成功法則」の影から決別したいと考えたのではないのか?
と推察できるのです。

そしてこの推察が、「コーチングは日本で独自に発展した」という仮説を裏付ける根拠にもなるのです。
posted by Shigeo at 17:47| 【3】コーチングを発明した人々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月28日

(11)決別に至る経緯、またはパンドラの箱(上)

何度も書いてますが、Coach UniversityとCTIは「同じ年」に創設されました。
それなのに一緒に語られることがない。
更に付け加えるならばICFも同じ年に発足しています。
これはあまりに「不自然」な状態だというのが一貫したわたしの主張です。
それ故にわたしは、両者は最初は一緒にコーチ養成機関の設立を目指した仲間で、しかし何らかの事情により決別した結果だったのではないか?と推察しました。
この推察は確かめられないのか?

そこで、両者の著作から、その決別の理由を探ってみようと思います。
レナード氏の著作は「ポータブル・コーチ」
CTIは「コーチング・バイブル」です。

前回ご紹介したように「ポータブル・コーチ」は金太郎飴のようにどこを切っても成功法則本でした。
コーチなんかどこにも登場しない。
セルフ・コーチングと言うにはあまりに指示的すぎる。
全編を貫くテーマは「現世ご利益」
「結果=利益」という構図を覆い隠すことなく堂々と表明しています。

しかし考えてみれば当たり前なのかもしれませんが、レナード氏の前身はフィナンシャル・プランナー。
クライアントに具体的な利益(富み)をもたらすことが最重要テーマです。
氏はその経験を活かして「コーチング」を編み出したわけですから、利益追求は当然の流れ・・・とも言えるのです。
また、こういう対人援助業を全面的に否定するつもりもありません。

しかしそれならば、現在多くのコーチングに関する書籍やWebサイトで述べられている「コーチングはクライアントの自立を促進する」や「コミュニケーションを豊かにする」や「自分らしく生きるために」など理念はいったいどこから来たのでしょう。
それどころか、利益追求を一切謳ってない書籍や養成機関も少なくありません。

そこで次ぎにCTIの書籍を見てみます。
「コーチング・バイブル」もよると、コーチングの最大の目標は「フルフィルメント」=充足感。
しかも具体的に「クライアントの目標が家族と過ごす時間を大切にする」ことであれば、昇進、賃金アップの打診は、収入は確かに増えるが本来の目標に反するのではないか?と「指摘」すべきだとまで書かれている。

これは、ポータブル・コーチで述べられている思想とあまりに対極的です。

さらにCTIジャパンのWebサイトにおいては「コーアクティブ・コーチングはプロのコーチを育成することを目的として構築された一つの体系」ではあるが、その活用範囲は多岐にわたると書かれています。
たとえば「人材育成」や「関係改善」あるいは「子育てや学校教育における生徒指導」それから「友人や夫婦間のコミュニケーション力の向上」さらには「自分自身を見つめ直すきっかけ」にも役立つとある。
つまり「およそあらゆる人間関係、あらゆる組織の中で活用できる新たなコミュニケーションスタイルであり、基本的な「ヒューマン・スキル」であると語られているのです。

気づかれました?
今、一般的に考えられている「コミュニケーション・スキル」としてのコーチングととても近いのがCTIの思想です。

この違いを一般的には「Coach Universityはビジネス・コーチングに特化、CTIはパーソナル・コーチングに特化」と言い表されています。
コーチング・バイブルにも「コーアクティブ・コーチングはパーソナル・コーチング」とはっきりと書かれています。

「なるほど!だから先駆者グループは仲違いしたのか?」
と考えるのは残念ながら早計です。

もう少し両者の違いを見ていきましょう。

Coach Universityには、具体的な結果を明確に追求する傾向が感じられます。
つまりそれはとてもコンサルティング的なのです。
もっとはっきり述べるなら、個人向けコンサルティングをコーチングと改名しただけ、とも感じられるのです。

Coach Universityと独占契約を結んだコーチ21が監修する「コーチング選集」第一巻「コーチング5つの原則」という書籍があります。
この前文で監修者は「コーチングを学ぶにふさわしい海外の書籍を厳選」と書かれていますので、コーチ21のコーチング論に合致した内容であると考えられます。
更に、コーチ21はCoach Universityと独占契約を結ぶくらいですからCoach Universityのコーチング論と近いと考えられるわけです。
回りくどい説明でしたが、しかるに「コーチング5つの原則」はレナード氏の考えに近い具体的なコーチング論と捉えて間違いはないであろうと言いたいわけです。

となると「コーチング5つの原則」もとても不思議な本です。
「結果が出なければコーチングとは言えない」
「『コーチングは完璧でした。でも結果は伴いませんでした』では、意味がない」など、驚くくらいの実利主義です。

・・・人間形成とか自立や豊かな対人関係はどうなっているのでしょか?

このように焦点を「結果」に当てると、両者の違いがより鮮明になって来ます。

Coach Universityはコンサルティング的であり、実利的結果優先的。
CTIは「全体的」な充足感。結果ではなく人間の成長と自立を目標とする。

しかしこの違いは天地ほどの落差がある。
例えるなら「道場」と「人生相談」くらいの違いです。
同じ「コーチング」という言葉を使ってはいるが!

では両者のコーチングには共通項はまったく存在しないのか?
もちろん、存在します。
そしてその共通項こそが、両者の決別を証明する証拠であると考えられるのです。
posted by Shigeo at 17:45| 【3】コーチングを発明した人々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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