2008年10月04日

(6)避けたかった事情

どうしてコーチングは「コーチング」という紛らわしい命名を選択しなければならなかったのか?
それはこういう理由です。

実は、ポジティブシンキングや成功法則は両刃の剣で、自己啓発セミナー業者に利用されやすい側面を持っていました。
そして事実、利用されてきたのです。
自己啓発セミナーも(一般的な)コーチングも、基本的思想は同じです。
「人間には無限の可能性が秘められている」
「常識や身に付いた考え方が邪魔をして、それらを発揮できていないだけだ」
別に考え方としては問題ないのですが、自己啓発セミナー業者にはピンからキリまでいました(そして現在も事情はあまり変わっていません)。
事実怪しいところは、受講者を部屋に閉じこめてほとんどマインド・コントロールのようなことをやってしまう。
被害者団体や救済組織なども存在し、カルト教団問題と酷似していますが、まさしくこの類似点が、自己啓発セミナーが敬遠される理由なのです。

分かりやすい例で説明します。
たとえば「新興宗教」と言っても、それはとても広く奥深い分野です。
しかし宗教というだけで身構える人たちはいる。
残念ながらこれは事実。
もちろん怪しくない教団、真面目で真摯な教団も多いのですが、一部のカルト教団のせいで、新興宗教そのものが「危険視」されてします。
自己啓発セミナーが抱える問題もこれとまったく同じです。

もう一つのやっかいな問題は、ポジティブシンキング・成功法則と自己啓発セミナーは、同じヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントから生まれたという事実です。
それ故にポジティブシンキングや成功法則は、詐欺的な自己啓発セミナーの中でも語られることになった。仕方ないのです。思想は同じなのですから。

このような背景があるから、同じ思想的背景を持つコーチングは、自己啓発セミナーに取り込まれない仕掛けがどうしても必要だった。コーチングを発明したグループはどうしても避けたかったのでしょう。
だから、なるべくポジティブシンキングとか成功法則、もしくは幸福を勝ち取るとか自己実現とか、そういう連想を避ける術を考えた。
それがヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントをまったく連想させないコーチングというネーミングだったのです。

もちろんすべて憶測の域を出ません。
が、根拠がまったくないわけではありません。

実は結局、コーチングは自己啓発セミナー業界に嗅ぎつかれてしまいました。
例えば自己啓発セミナーの問題を告発するグループでは、怪しいキーワード一覧に「コーチング」を含めています。「コーチングは怪しい場合がある」というのです。
この事実は、カルト教団と同様に危険だと指摘されている自己啓発セミナーで、コーチングがすでに利用されている事実を物語っています。

考えてみればこれはとても残念な経緯です。
なぜならどうしても避けたかった展開を、広く知られることで結果的に招いてしまったわけですから。
しかし考えてみれば、これはどうしても避けられない流れだったのかもしれません。
というのも自己啓発セミナー屋は、利用できるものは何だって利用するわけで、彼らにしてみれば「コーチング」は大量にストックしているアイテムの一つに過ぎないでしょうから。

それよりも、この画期的なネーミングのお陰で、社会に素早く浸透し、発明グループの思惑をはるかに超越して広まったのですから、ネーミング戦略は成功したととらえた方が健全で有益かもしれません。

さて、ではこれほどの発明を成し遂げたのは、いったいどんな方だったんでしょう・・・
posted by Shigeo at 23:30| 【4】コーチングの理論基盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月24日

(7)発明家のジレンマ

(7)発明家のジレンマ

では、この画期的なパラダイムシフトを「誰が」発明したのか?
当然、コーチング界では偉大なる存在として多くのエピソードやそのサクセスストーリーに関する記述であふれている・・・はず。
ところが、コーチング界で、この発明家に関して語られることはほとんどありません。
信じられない方は書店に行って、片っ端から「コーチング」に関する書籍を当たってみて下さい。
少なくとも「現代の『コーチング』につながる理論や仕組みを開発した人物」には、滅多なことでは行き当たらないと思います。

これは、とても不思議なことではないでしょうか?
仮に、多くの書籍が述べていることが事実で、「自然な流れ」でビジネスにコーチングが導入されたのだとしても、それにしても切っ掛けになった出来事やら著述があったと考えるのが自然。
更に疑うならば、Coach Universityの設立の切っ掛けは何だったのか?
何故、それらが明かでないのか?
それが論理的なものではなく、物語的で叙情的な事柄であったとしても、創業や発明に関する物語は、それなりに高揚感や感動的な逸話で彩られています。
それなのに「何故」創立時の物語が空白なのか?

さて、結論としてはCoach Universityの創設者は、トマス・レナード氏という方です。
後になってみれば違ったアプローチもあったのですが、わたしはこの人物にたどり着くのにとても苦労しました。

「難病患者を支えるコーチングサポートの実際(2002真興交易医書出版局)」

この書籍の中の「コーチングの歴史」に、以下のような記述があります。

米国では1980年代後半に「ビジネスの世界でコーチという存在が誕生した」
「著名なコーチとして知られるのはThomas Leonardである」
彼の独自の「スキルを体系化したものがコーチング」である。
「彼はその経験やノウハウを基に」「コーチ・ユニバーシティを設立した」

とても明解な記述です。
これでもう「ビジネスにコーチングを持ち込んだ創始者はトマス・レナード氏」で決まり・・・と結論付けたいところなのですが、どうも釈然としないのです。
何故か。
Coach Universityと日本での独占契約結んでいるコーチ21や、コーチ21の関係者が理事をされている日本コーチ協会のサイトには、どうしたことかレナード氏に関しての記述がないのです(以前紹介した古いブログは除く)。
まるで自然発生的にCoach Universityが創立されたかのようです。

では、コーチ21はレナード氏を創設者と考えていないのか?
とも考えられない。
というのも「難病患者を支えるコーチングサポートの実際」で「コーチングの歴史」などの執筆を担当されている方々は、コーチ21の方々です。

どうしても釈然としません。

とにかく日本で独占契約を結んでいるコーチ21からしてこんな矛盾を抱えています。
いずれにしろもう少し検証する必要が感じられます。

※上掲の書籍をきっかけにしてようやくコーチ・ユニバーシティの創設者が判明し、わたしはさっそくレナード氏の著作を調べました。
この結果にまた驚かされるのですが、それは改めて後述します。
ただ、今の時点で明らかにしておくべきことは、レナード氏も自身の著作の中で「1982年にパーソナル・コーチの仕事を始めた」「フィラデルフィアの新聞が最近(1998年前後)、『パーソナルコーチングの創始者はレナード氏だ』と書いた」とはっきりと述べてはいます。
が、残念ながら追随して事実を証明してくれる文献は存在しません。

世間には後になってから「実は以前から注目していたんだ」とか「絶対、ダメになると思っていた」などと発言するタイプがいますが、言うならばレナード氏のこれらの発言も同類と言わざるを得ず、いわゆる「後出しジャンケン」に過ぎません。
「有名」になった後で「実は1982年からやっていた」では、証拠としての説得力に欠けます。
(そういう内容の仕事をしていたことを否定したいわけではありません。あくまでネーミングの話)。

それと以前も書きましたが、同じ年に別のグループがCTIを設立している事実も見逃せません。

いくらビジネス展開が早い米国とは言え、Coach Universityが創設されたのを知ってただちに真似してCTIを創ったとは、あまりに考えづらい。
いうのも、コミュニケーションスキルの習得がテーマです。
思いついて直ぐに始められる性質のものではありません。
くわえて1992年以前にレナード氏は著作を発表していないようなので、CTIは創設メンバーはいったいどこでレナード氏の画期的なパラダイムシフトを学んだのか?

それと米国は訴訟社会です。
仮にCTIがCoach Universityのカリキュラムを模倣したのであれば、ただちに訴訟を起こされるのではないか?

このように、Coach Universityの創設者はThomas Leonard氏であるという指摘もあるが、その事実を裏付ける文献はあまりに乏しい、というのが現実です。

「発明者」という称号は大袈裟だったかもしれません。
が、創始者、提唱者、中心的人物・・・・それらの肩書きを有する人物すら見あたらない世界。
それが「コーチング」という業界なのです。
posted by Shigeo at 10:11| 【3】コーチングを発明した人々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月30日

(8)無関心な理由

とにかく現時点では、コーチングの発明者・提唱者・創設者は不明のようです。
もちろんこれが事実だとは思っていません。
結果的に「不明」なのではなく、戦略的、もしくは意図された不明と考えられます。

しかしそれにしても不可思議ではないですか?
コーチングはカウンセリングなどと同じ「対人援助業務」。
同じ対人援助業務であるカウンセリング(心理療法)で、精神分析を発明したのはフロイト、NLPを開発したのはジョン・グリンダーとリチャード・バンドラー、入門書には必ず明記されているし、それは他の心理療法においても同様です。
ところが誰が「ビジネスにコーチング」というパラダイムシフトを成し遂げたのか、どこにも「はっきり」と書かれていない。
コーチングが特に不思議なのは、対人援助業務を積極的にビジネス展開しているNLPにおいても、必ずジョン・グリンダーとリチャード・バンドラーの名前は出て来る。
NLPそのものは、裁判にまで発展した泥沼の覇権争いをその後経験しているにもかかわらず、です。

誤解のないように言っておきますが、確かに1959年にハーバード大学助教授だったマイルズ・メイスという人物が「マネジメントの中心は人間であり、人間中心のマネジメントの中でコーチングは重要なスキルである」という書籍(論文?)を残したのでしょう。
だけどこれは潮流とはならなかった。
何故なら、件の年表にも、メイスの論文がきっかけで一気にコーチングの研究や実践が始まった・・・等とは書かれていないのですから。

これは「後出しジャンケン」の典型的なレトリックです。
仮にマイルズ・メイル氏の論文を切っ掛けにしてビジネス・コーチングの研究が始まったのならば、まさにメイル氏が「コーチングの祖」とされるべきです。
しかしそういう流れにはなっていない。
明らかな時間的な断絶があるのです。

だからネーミングについてだけ想像してみれば、誰かがこのメイスの論文を後世になって読んで(もしくは見かけて)、激しいインスピレーションを得たのではないか。
とも考えられる。
しかしもっと重要なことは、パラダイムシフトのためには「すでにビジネスでコーチングという考え方は存在した」としておいた方が効果的、またはそういう流れが存在する必要があったということです。

「ビジネスでコーチ? なんだそりゃ! 社員にテニスでも教えるのか?(笑)」
「いえいえ、実は1959年時点で既に【ハーバード大学】の先生がビジネスにコーチングが有効であると論文発表してるんですよ」
「ほほー! ハーバードですかあ」

このように「ビジネスでコーチング」という概念は既にあったことにしておいた方が都合が良かったと考えられます。
だから・・・名乗りでない方がいい。

ただし、これも仮説です。
そして付け加えておくと、もしかしたらこの現状は、レナード氏の本意ではなかったのかもしれない。
少し言い方を変えると、

・・・最早レナード氏の存在を重要視していない
・・・もしくはその存在は今となっては邪魔でさえある
   (この件は後々書くと思います)

次ぎに、どうしてよりによって同じ年に、その後も大手であり続ける2つのコーチ養成機関が登場したのか?

これまでの推論に基づけば、答えは簡単に出て来ます。

たぶん、元々同じグループのメンバーだったのでしょう。
レナード氏とCTI創設者のどなたかが。

1992年以前に、コーチングをビジネスに取り込むことを思いついた人物を中心として「あるグループ」が共同で養成機関の設立準備をしていた。
それが何らかの事情で仲違いし、別々に組織を立ち上げた結果が2つの養成機関の同年設立の真相でしょう。
そしてたぶん手法や考え方はある程度まで一緒に練り上げた関係で著作権やらを主張しにくい関係になっている。

だから、お互いにお互いのことを批判しない。
と同時に協業もしない。
しかし流れ的には「Coach Universityが最初だよ」ということになっている。
そういうことにしておいていいよとCTI側が譲歩している感じです。
「コーチング・バイブル」にも、自分たちが最初だとは書いてないけど、コーチ・ユニバーシティが最初だとも書いてない。
不気味なくらいの無視、そして静かな緊張関係です。
わたしには、これらの事実から、初期メンバーの微妙な人間関係が垣間見られると感じられるのですが、これは単なる妄想に過ぎないのでしょうか?

しかし、両陣営が準備段階で協調関係にあったと思われる微かな痕跡が「コーチング・バイブル」の謝辞に見いだせます。
「その他の支援いただいた方」の中に、レナード氏の名前があるのです。

しかし考えてみると、先駆者争い・本家論争を行わなかったことで、結果的にコーチングは普及し、コーチ業界も大きくなりました。
これは予期せぬ恩恵だったと言えます。
しかしこの恩恵とは裏腹に、コーチングの定義と実情がひどく曖昧になりました。
誰もが勝手にコーチと名乗るようになった。
もはやコンサルティングとコーチングは同義です。
誰も明確な区別がつけられない。
また、残念なことに自己啓発セミナーにも利用された。
本来、無関係なはずのスポーツ界の指導者まで「コーチング」を語り始めた。

静かなる発明家達は、この現実をどう感じているのでしょう。
posted by Shigeo at 23:19| 【3】コーチングを発明した人々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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